Lee’s Words 李国秀オフィシャルブログ

オシムJAPANに与えられるべき評価とは

元ヴェルディ総監督・李国秀が歴代の日本代表監督とその時代を振り返ります。前回のジーコ監督編に続き、今回はオシム監督が率いた日本代表を語ります。

───ジーコ監督の次はオシム氏が日本代表監督に就任しました。オシム氏は在任期間が短かったこともあり、良かったのか、悪かったのか、いまだに評価が定まっていません。

おもしろかったです。オシムさんは。

オシムさんがジェフを率いていたとき、取材もあってジェフのサッカーを観に行ったのですが、そのとき「このサッカーはおもしろいね」と強い印象を受けたことを覚えています。まるで欧州のチームのようなサッカーでしたから。

───オシム監督が率いた日本代表チームについてはいかがですか?

私はオシムさんがどのような選手を選ぶのだろうと楽しみにしていたのですよ。予算や契約の制限を受けるクラブチームと違い、日本代表チームは日本国籍ならどの選手でも呼べるわけですから。

しかし、2007年のアジア杯では、フタを開けたら結局はジェフの選手を大事にした。そして結果が伴わなかった。だったらクビですよね。

オシム氏に「この人はダメかな」と思った理由

───結果を出すわけでもなく、新戦力を発掘するわけでもなく大会を終えてしまったことがマズかったと。

たとえば、いまベガルタ仙台いる太田吉彰君を「どの場面で使うのだろう」とか、いろいろと楽しみにしていたことはあったのですよ。しかし、結局は信頼されなかったのか、一回も使われなかったですよね。

それぞれのチームでカルチャーが違いますから、大変さはあったのでしょうけれども。

───日本代表チームでも所属チームのカルチャーが関係あるのですか?

ブラジルのような人材が豊富な国は、監督の望むやり方でやらせてみてダメなら次の選手を試すというやり方のほうが上手くいく。しかし、欧州ではチームにフィットするように教育的なトレーニングをロジカルに積み上げていく、教育的な配慮のある監督が多いですね。

───結果的にジェフの選手を大事にしたということは、オシム監督のサッカーにフィットできた選手が少なかったのでしょうか?

フィットしているかどうかという観点から言えば、ジェフの選手を重用することは正しいというか、やりやすかったのでしょうがね。

しかし、あの時期は2007年で、W杯まであと3年ありましたし、もっといろいろな選手を試してほしかったし、見てみたかった。メンバーにはいろいろな選手を選んでいたわけですから、「どの選手を使うのか」と思っていたら、新しい選手を全然使わないわけでしょう。そのとき「あ、この人はダメかな」と思いました。

───アジア杯のあと、2007年の11月には脳梗塞で倒れてしまいます。

脳梗塞で倒れる前から代表監督としては、ダメでしたよね。

これまで、オフト加茂さん、岡田さんトルシエジーコと歴代の代表監督を振り返ってきて、監督そのものの良し悪しについては、ほとんど触れてきませんでしたし、立場的にも気にすることもなかったのですが、アジア杯のオシムさんの采配を見て、私は「代えるべきだ」と初めて思いました。

まだトルシエの方がベターだったんじゃないですか? 彼の戦い方は徹底していましたし。

───トルシエ氏のどのような点がオシム氏よりベターだたのでしょうか?

彼は日本でクラブチームを指揮しなかっただけに、選手を見る目がフラットでした。

オシムさんはジェフを指揮していましたからね。もっと視野を広く持っているかと思ったらそうではなかったので期待が外れたということです。

───オシムJAPANがアジア杯で優勝していたとしても「この監督はダメかもしれない」と思いましたか?

私はアジア杯でいろいろな選手を試してほしかった。そしてアジア杯は、勝負のかかった舞台で新戦力を試せる数少ない機会でもあったと思うのです。ところがオシム監督は勝ちに行って負けましたから。だから「ダメかもしれない」と思ったのです。

勝ちに行くというのは、自分の息がかかった選手を軸においてゲームを進めたということです。

───なるほど。

もちろん、日本代表監督には大きなプレッシャーがかかりますから、難しいですよ。

だから、われわれサッカー人は底辺を拡大しなければならない。「サッカー語」がわかる選手をたくさん作り上げていかねばならないと思うのです。

───サッカー語とはどういう意味ですか?

監督が「こういうやり方をしよう」と言ったら、すぐに理解できる「賢さ」のことです。

サッカー用語を多く知っているとか、そういう意味ではないですよ。

バルセロナやマンチェスター・ユナイテッドのような一流のクラブチームでは、さまざまな国籍の選手がいて、育った環境も違いますが、サッカー語がちゃんとできている選手しか入れませんから、時間がなくてもすぐにチームが作れます。

───日本にはサッカー語のわかる選手はいますか?

たとえばトルシエなんかは、4年間でさまざまな選手を代表に呼んで試しましたが、もしかしたら彼は「こいつらサッカー語をわかってないな」と思ったかもしれない。

───オシム氏が脳梗塞で倒れず、あのまま日本代表を指揮していたら、いったいどうなっただろうと考えてしまうのですが。

病気がなくても解任になっていたのではないですかね。

オシムさんには、同じサッカー界にいる人間として、「こういうやり方があったのか」と思わされることもありましたし、ジェフではまるで欧州にいるかのようなサッカーを見せてくれました。悪いとは思わないですよ。

ただ、オシムさんは日本代表にいったい何をもたらしたのかを考えてしまうのですよ。

たとえば、トルシエは「フラット3」「オートマティズム」のような、とっつきやすさ、真似しやすさがありました。そういったわかりやすさの方が正しいのかもしれませんね。

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