李国秀の目 「単調な攻撃 守備にはおごり」
ヨルダン戦の日本で気になることが二つあった。
一つは、ピッチに出たら、自分の価値を上げるようなプレーをするのがサッカーだという意識が薄い選手がいたこと。清武(ニュルンベルグ)と酒井高(シュツットガルト)のことだ。先発機会を得た彼らは、監督の指示を忠実にこなすことに神経が行きすぎていたように見えた。特に清武は、ドイツでの躍動感がなく、凝り固まったプレーだった。
結果として、負傷離脱していた本田(CSKAモスクワ)の存在の大きさが浮き彫りになった。勝てなかった最大の原因は、テンポが変わらないゲームとなってしまったこと。流れをスローにできる選手の不在で、クイックな香川(マンチェスター・ユナイテッド)が生きなかった。緩急がなく、単調な攻撃では、ヨルダンも守りやすかったのではないだろうか。
もう一つは、失点の仕方だ。W杯予選のような厳しい試合ではありえない形だった。「相手より先にボール触る」意欲に欠けていた。1点目の相手CKで競り負けた岡崎(シュツットガルト)。「ボールを追うより、守るべきゴールを背にして準備する」という守備の原則を忘れた2失点目の吉田(サウサンプトン)は、大変幼い姿だった。厳しく言えば、おごりがあったと思う。
もちろん、W杯予選突破には足踏みした程度で、悲観はしていない。ここまで全てが順調に来ていたザッケローニ監督が、次にどういう手を打つかが楽しみになったとも言える。
(元ヴェルディ総監督)読売新聞3月28日朝刊より
───さて、3月26日にアウェーで行われたヨルダン戦について語ってください。良かった選手、悪かった選手は誰ですか? 李さん読売新聞にが寄稿したコラムでは、清武弘嗣、酒井高徳、吉田麻也らの名前があがっていましたが。
実は、特に良かった悪かったはなかったんだ。ただ、読売新聞で清武について書いたのは、彼が杓子定規な動きをしすぎているように感じたから。彼はなぜ日本代表に選ばれているのか? 私は、彼がドイツで見せているような躍動感をザッケローニ監督は買っているのでは、と見ている。ところが、ヨルダン戦では、そういった彼の良さが見られなかった。
───躍動感ですか。
清武は左サイドだったこともあったのかな。私が書いた読売新聞の原稿に付け加えるならばね、先日、WBCが賑やかに行われたけれども、アメリカで生まれた野球は監督がサインで選手に指示を出す競技。しかし、サッカーとは選手の能力を監督が見抜き、「選手がやる競技」なわけだ。そういう意味では、清武の杓子定規な動きは物足りなかった。
───酒井高徳は?
普通の選手だよ。昨日の試合よりはもっとやれるんだろうけど。チャンスメイクもできる長友と比べると、やはり長友の方に一日の長があると言わざるをえない。
野球的な発想から抜けれらないメディア
───前半終了間際にCKから失点しました。
危険な時間帯だけに、エアポケットに入ってしまったんだろうね。情けない失点だった。サッカーには約束事があって、サッカー人は「規律」という言葉を使うのだけれども、その点がどうだったのかな、とは思う。
相手に先に触られたのはナンセンスだね。サッカーを長くやっていれば、そういう日も、もちろんあるのだけど、チームとしてCKの約束事を徹底していたならば防げた。あの場面では、岡崎が股の間に左足を入れれば、先に触れたわけだ。少し雑だったね。あんなにど真ん中に入られて失点するのは、通常ならば考えづらい。
───代表レベルではセットプレーの守り方を監督が教えることはないのですか?
日本語の使い方が間違ってるよ。プロの世界では、監督が教えることはない。監督が要求し、選手がそれに応える。音楽で言えば、アマチュアはブラスバンドでプロはオーケストラ。つまり、監督は要求に応えられる選手を選ぶ。それだけ。
───なるほど。
プロでは、監督が要求すれば、選手はそれを表現できるという前提でやっている。そして合宿では、コンディションの確認、調整をする。だから、練習時間が多い少ないは関係ないんだ。極端な例を出せば、ブラジル代表みたいなチームの選手に監督は“指導”しますか? しないでしょう。技術的に要求に応えられる選手を選んでいる。できなければ選ばれない。それだけさ。
───プロサッカーにおける指導とは確認のことなのですね。
現場では、「CKはマンツーマンで相手より前で先に触ろう。わかりましたか?選手諸君」といった感じになるわけだ。監督が教えると言うよりも、アイデアを伝えると言ったほうが近い。
「監督が選手を指導する」「代表は練習時間が少ないからダメ」というマスコミの論調は野球的な発想でしょう。スポーツに限らず、日本のメディアのあり方はおかしいと思っているし、そうした日本のメディアの幼さが国民をおかしくしているとも思う。大げさに言えばね。
基本を捨てた吉田麻也の幼いプレー
───岡崎がマークを外した失点のシーンに戻りますと……
CKはマンツーマンかゾーンが一般論だけれども、代表チームに「CKではマンツーマン」という以上の約束事がなかったのでは、とは思うね。Jリーグだとグランパスはゾーン、海外だとアーセナルもゾーンてやってるね。マンツーマン、ゾーンのどちらを選ぶかは監督のサッカー哲学で、マンツーマン自体が悪いとかではない。ただ「相手より前で先に触ろう」といった約束事があったかどうかは気になる。
───2失点目については?
まったく幼いプレーだったね。信じられない。吉田は相当悔しがっているでしょう。DFはゴールを背にして守るのが基本。吉田にはゴールを背にして守るかボールを追いかけるか、2つの選択肢があったはずだけど、基本を捨ててボールを追いかけたら、追いかけっこで負けちゃった。屈辱的と言ってもいい。
相手のスピードやフィジカルの強さは、試合中に皮膚感覚でわかってくる。吉田はそういうことをインプットしていたはずなんだろうけどやられてしまった。とにかくすごく恥ずかしい失点だね。
遠藤がPKを決めていれば、引き分けになって、こういう議論は起こらなかったでしょう。しかし、この敗戦で日本がW杯に出られなくなるわけでもない。今の段階でこういう議論が起こるのはいいことなのでは。
───吉田は相手を舐めてたということですか?
油断といったほうがいいだろうね。今の日本代表にはパンチのある選手がいない。パンチがある選手とは、精神的にたくましく、ミスを厳しく指摘するような選手のこと。極端な例を出すと、ドゥンガみたいな、特別うまい選手ではないけれども、ガーガー言う選手がいたほうがいいんだろうね。
なぜ乾をハーフナーと同時に投入しなかったのか
───その後、香川が1点返し、その直後にもらったPKを遠藤が外しました。
素晴らしい得点だったね。遠藤のPKは結果論だから。
ただ、私が思ったのは、ハーフナーを代えたとき、なぜ同時に乾も入れなかったのだろう、ということ。2人同時の方が、相手にとっては嫌だったのではないかな。足腰が疲れている時に、乾のようなドリブラーが入ってくるのが、一番嫌なものだからね。選手交代は監督の専権事項だから、なんとも言えないけどね。
得点は良かったのだけれども、全体を通しては単調だったね。スローになったり、クイックに攻めたり、サッカーには抑揚があるかどうかが大事。テンポが変化する、抑揚のあるサッカーが見ていておもしろい。この試合には、それはなかった。本田が入れば、クイックな香川とはおもしろい組み合わせになる。
───他の選手はどうでしたか? 例えば今野や内田は?
今野には興味がない。コメントのしようがないね。地味な選手で特徴がない。
日本人の監督はCBに強さを求める。その一方、欧州人はトルシエが森岡隆三を選んだように、お利口な選手を好む。岡田武史が2002年に日本代表監督だったら、森岡隆三は日本代表には選ばれなかったでしょう。だから今野はお利口さん、なのかもしれないね。ザッケローニは今野のその部分を気に入っているのかもしれない。
内田はこの試合で100の力を出したかと言えば、そうではない。7割くらいでしょう。いつも100出せる選手は一流、時に70や60になる選手は1.5流。厳しく見ると、そういうこと。
負けてしまったけれども、全体を通して特に悪かった選手はいないよ。負けてしまったからみんながギャーギャー騒いでいるだけで。サッカーでは、凄いパフォーマンスをしても負けてしまうことはあるし、スコアでは勝っても、選手に厳しく指摘しなければならないゲームもある。
サッカーをどう捉えるか。勝てばいいのか? そういう議論が広がるといいね。
今後の日本代表に入る選手? セレッソの柿谷が面白い
───今後、代表に入るべき選手、入ってもおかしくないと思う選手は?
Jリーグをしっかり見ているわけではないので、答えづらいけど、セレッソの柿谷なんかいいんじゃない? 彼のように上手い選手は、鋭い選手と組み合わせると面白いだろうね。
もちろん、サッカー協会はザッケローニに託したわけだから、彼が自身のサッカー哲学に照らしあわせて、選手を選んでいくのだろうけれども、個人的には柿谷が面白いと思う。
W杯を見据えると、今の代表は選手層が薄い気はするね。現状の選手層ではベスト8に入るのは厳しいんじゃないかなと見ている。
───なるほど。ではこのブログでも、継続して日本代表を語っていきましょう。
日本代表に限らずだけれども、どういうサッカーが人々の心に訴えるのか、サッカーのワクワク感とは何なのか。たとえば、それはゆっくりプレーする本田とすばしっこい香川の組み合わせだったりする。サッカーの面白さ、深さをもっと多くの人に知ってもらいたいし、このブログを読んだ人たちが、いいサッカーとはどんなサッカーなのか、を議論をしてくれるといいね。
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