───3月30日は等々力競技場で行われたJ1第5節川崎フロンターレ対ヴァンフォーレ甲府を観戦されたそうですね。
先日、サッカー指導の関係で山梨に行った時に、私がヴェルディ総監督時代に選手だった平本一樹君と再会しました。ヴァンフォーレには他にも桐蔭学園で指導した盛田剛平君もおりますから、縁のある選手が二人いるということで「どのようなサッカーをするのかな」と気になって見に行きました。
試合の日の朝から城福監督にチケットの手配をお願いして……。お忙しいところ申し訳なかったなと(笑)。
それはそうと、ヴェルディ時代にホームとして使用していた思い出深い等々力競技場が随分と変わっていてびっくりしましたよ。
───縁のある選手がいただけに、心情的にはヴァンフォーレ寄りで観戦していたのでしょうか?
サッカーをどう見るか。私の基準は「上手い」「賢い」「強い」そして「社会性」、この4つのキーワードでサッカー選手を見ます。
その上で監督がどのような指示で選手を送り出したか、前半の結果を受けて、後半でチームがどう変わったか、といったところを見ます。
サポーターのようにどちらかを応援するということはないですね。
あうんの呼吸が少なかった両チーム
───どのようなゲームになると予想して競技場に向かいましたか?
まず、サッカーの面白いところは、選手同士の意図がかみ合った「あうんの呼吸」だと考えます。この「あうんの呼吸」が見ていてもやっていても面白い部分。
総人件費が高いホームのフロンターレ、総人件費の少ない甲府、お互いあうんの呼吸が何回あるだろうかと想像していましたね。
───実際はいかがでしたか?
お互いに勝ち点がとれていない中で、自信の無さそうなゲームの進め方という印象です。総人件費が高く、ホームであるフロンターレは、本来なら圧倒しなくてはならない状況でしたが、そのようには見えませんでした。また、両チームともあうんの呼吸は多くはなかったと思います。
───フロンターレには日本代表から戻ってきた中村憲剛もいました。
中村憲剛は前半、ギクシャクしていました。ただ、あうんの呼吸を探している場面はあって、キレがなかったなりに、1、2度は「なるほどね」というプレーはありました。
中盤では6番と19番の選手はプレーがお粗末。フロンターレは今季、等々力競技場は初めてだったとか、いろいろな要素があるにしても、あうんの呼吸を感じる場面が少なかったのは気になりました。サポーターの方々に「そうかもしれない」と思っていただけると、日本人のサッカーの見方というものが前進していくかもしれませんね。
───元日本代表の大久保嘉人はどうでしたか?
体のキレは、いつ見ても素晴らしい選手です。しかし、老練さを感じないというか、とても本能的な動きをします。もっと素晴らしいプレーはできるのだろうが、今日はあうんの呼吸を感じませんでした。
───李さんがどこかプロチームの監督をやっていたとしたら、大久保は獲得したい選手ですか?
獲らない方に6割、獲る方に4割。そんな選手です。
───微妙な表現ですね。
悪い選手ではないことは承知しています。話して、求めるものに適応するかどうか、フィットするかどうかを感じられれば獲得するでしょう。
同じFWの平本と比較すると、チームを組み立て易いのは平本、何かやらかすのは大久保。そんな感じでしょうか。大久保は難しい選手ですが、相手からしたら、やはり怖さはあります。体のキレが素晴らしいですから。
「ボールを繋ぐ」という言葉を使ってはいけない
───ヴァンフォーレの印象は?
後半に全体の運動量が落ちました、やはり、ポゼッションができないとジャブのように効いてくるのでしょう。ボールを追いかけて疲れるのと、自分で動いて疲れるのと、どちらが爽快かという問題です。
選手個人のボールの持ち方が良くないのでは? とも思いましたが、平本からはボールの持ち方に余裕は感じました。得点以外にも、パスをするか、ドリブルをするか、両方ができるような素晴らしいボールの持ち方がありました。
ヴァンフォーレのキャプテン、柏君も特に上手いわけではないけれども運動量があって、タフで面白いとは思います。
しかし、全体として上手さ、賢さが足りないから、結果的にボールを失う場面が多くなってしまったのでしょう。ボールを失って疲れてしまうと、サッカーをやっていて「苦しい」と感じてしまうのでは?
───ヴァンフォーレはボールを繋ぐことができなかったと。
「ボールを繋ぐ」という表現は違うでしょう。サッカー人の中に「ボールを繋ぐ」という言葉はありません。サッカーはボールを「いつ出すの?」「どこに出すの?」「なぜ出すの?」が原則です。
よく新聞記者とも表現をめぐって揉めるのですが、「ボールを繋ぐ」のではなく、「ボールを動かしながら相手を動かし、いつボールを出し、どこから攻めようか覗う」わけです。
───そして「今でしょ!」という場面でボールを出し、攻撃のスイッチを入れるわけですね?
その意識がチームの中でで統一され、共有されるとあうんの呼吸が生まれます。それがサッカーの醍醐味。
だから、ボールを繋ぐためにサッカーをやっているわけではないのですよ。少なくとも、私のサッカー観の中に「ボールを繋ぐ」という単語はないです。
───なるほど。前半には平本の得点もありました。
素晴らしい得点でした。試合後、平本君から電話があって「あれが足ではなくてダイビングヘッドだったら、昔と変わったねと言えるんだけれども」と話しましたよ(笑)。
───平本はダイビングヘッドが苦手な選手なんですか?
足で何かをやるのが好きな選手です。まあ、それは別として、自信に満ち溢れていて、存在感がありました。願わくばもう少し長く見たかったですが。すべては結果論ですから、何とも言えないですけれども。
羽生君もポイントでいい仕事をするというか、判断力があって、サッカー選手らしい動きはありました。
ホームゲームで選手を1人しか代えなかったフロンターレ
───試合は引き分けに終わりました。
フロンターレの監督が、負けている局面で選手を1人しか代えなかったのは「なぜだろう」と思いました。等々力はフロンターレのホームですから、残り30分くらいから選手をどんどん投入して、「俺達はやる気だぞ」とサポーターにアピールするのが、サッカー界では自然なことです。
それをやらずに勝ち切れなかったゲームですから、サッカーの本場であったなら、サポーターは怒るでしょうね。もちろん、選手交代は監督の専権事項ですから、何とも言えませんよ。ただ結果として、解せないというか、疑問には思いました。チームに何か問題があるのではと想像してしまうけれども。試合後の記者会見で、記者からそういうツッコミはあったのかどうかはわかりませんが。
いずれにしろ、こういうことをきっかけにサポーターの方々が「Jリーグとは何だろう?」と考えてくれればいいのではないでしょうか。
───ヴァンフォーレ甲府の視点から試合を総括すると?
ヴァンフォーレはJ1残留が目標でしょうから、追いつかれはしましたが、負けなくてよかったのではないでしょうか。ただ、あれだけボールを失うと、疲労困憊はするでしょう。
ヴァンフォーレの城福監督は2年目で、ベースはありますから、上積みの部分が焦点になります。ただ、優勝争いはつらいだろうなと。長いシーズンですから怪我もあるし、イレギュラーなことも起こりますが、軸になるものが見えてくると面白いでしょう。
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