───ブラジルW杯で日本は敗退してしまいました。ご覧になってどうでしたか?
どうもこうもないですよね。見た通りじゃないですか?
───そこをなんとか。日本戦の前後にはYOMIURI ONLINEにも寄稿されていましたね。
日本戦に関して言えば、読売新聞に書いた通りですよ。
(関連リンク:コートジボワール戦展望、コートジボワール戦分析、ギリシャ戦展望、ギリシャ戦分析、コロンビア戦展望、コロンビア戦分析、日本代表総括)
───YOMIURI ONLINEに寄稿した記事はネットでも話題を呼んでいました。SNSで数多くシェアされていましたし、2ちゃんねるにスレッドが立っているのも見ました。
どんな反応があったのかな?
───賛否両論……ですかね。共感が3割、反論が3割、あとの4割は李さんの国籍を揶揄したりとか、意味のないノイズといった印象です。
私は反論や批判には慣れてますから。耳障りのいいことも書いてないですし。
日本代表はW杯でなぜ惨敗したのか?
───日本はなぜ負けてしまったのでしょう?
コロンビアは大人のサッカーをして、日本は子供のサッカーでした。小学生、中学生くらいのサッカーじゃないですか?
───日本のどのあたりが子供サッカーだったのでしょう?
勢いだけ。いらなくなったらパスをしてしまう。サッカーでは、いつ、どこに、なぜパスをするのかが大事なのに。
───監督がザッケローニではなかったら、日本が勝てた可能性ってあったと思われますか?
死んだ子の歳を数えるようなことはやめましょう。
このブログでは1年前に「なぜザッケローニなのか」の議論がなかったことを指摘しました。そこで終わった話ですよ。
「誰がなぜその監督選んだのか」、そこに哲学や根拠がなければならない。
───日本が敗退したことで、テレビ放送も視聴率の苦戦が伝えられていますが。
それはテレビ局がキャピキャピした「にわか的にサッカーを観る人」向けに番組を作ったからでしょう。自分で自分の首を絞めたんですよ。
───日本戦の視聴率や、表面的なサッカー人気を支えているのは、単なるナショナリズムのように見えます。ほとんどの人は「日本が世界に認められる」という光景が見たいだけで、観ている人がサッカー好きかというとそうでもないと感じてしまいました。
W杯は国と国との戦いですから、ナショナリズムが湧き上がることをさほどネガティブに捉えてはいないのですが、我々サッカー人としては、そういうところを入り口にして「サッカーが好きな人」を育てていかないといけないでしょうね。
───解説者の方々も煽り過ぎなのでは? 日本が3戦全勝できるかのようなことを言っていた方もいました。解説者はそういう気休めのようなことを言うようテレビ局から要求されたりするんでしょうか?
それは知りません。ただ、テレビだから特別に、ということはないですよ。見たままを言っている方がほとんどでは? 彼らの目からは3戦全勝できるように見えてしまったということでしょう。
解説者もいろいろですよ。たとえば松木安太郎君なんかは、あれは解説者ではなく応援団ですよね。それが悪いと言いたいわけではなくて。彼ほど熱烈に日本を応援する人はいないですし、松木君を見て気分が悪いという人は日本に存在しないでしょう。私は観ませんけど(笑)。
そして福西崇史君のような爽やかな解説者もいれば、セルジオ越後さんのような方もいらっしゃったりとか(笑)。
ただ、私なりに解説者の陣容について思ったところを言うならば、指導経験のある方、監督で成功した方が少ないかなと。選手と指導者って全然違うものですからね。もちろん「選手目線」というジャンルがあってもいいんですけど。
───たしかに、岡田武史さんのように、監督として成功した解説者はいらっしゃいますが、李さんのように日本代表選手を育ててきた方、育成に携わってきた方となるとほとんど見当たりませんね。ところで、桐蔭学園で李さんの指導を受けた戸田和幸さんがギリシャ戦でNHKスタジオ解説で出演していて、「わかりやすい」とネットでも話題を呼んでいましたよ。
あ、そうなの? それは知りませんでした。
私はサッカーを言葉にして、言語化していく世界観でチームを作ってきましたから。桐蔭学園で指導した選手はみな戸田君のように明快な言葉で語れますよ。
───W杯の優勝争いもにわかに熱を帯びてきましたが、李さんはどのチームが一番いいとお考えですか?
どのチームが一番いいとかはあまり考えないんですよ。
ただ、国の個性を発揮しているか、特徴的かどうかは気になります。勝ち上がってくる国にはやはり明確なスタイルがある。
たとえば、ウルグアイの試合をテレビで観ましたけどね、解説者が「ウルグアイペースですね」なんて言っていたものだから、「そんなバカな」と思いましたよ。
───どういうことですか?
ウルグアイという国は伝統的に守って勝つチーム。攻めて勝ったことは過去ないんです。つまり、ウルグアイが攻めているということは、ウルグアイが個性を発揮していないということなんですよ。
ずっとW杯を見ている人なら、当然知っていることなのですが。解説者にも「にわか」がいるということなのかもしれない。
───優勝争いはどの国になりそうですか?
ドイツとオランダによる、南米開催では初の欧州勢での決勝戦になるかもしれません。
ブラジルは、才能ある選手はいますが、チームで中心になっている選手が少ないので、厳しいなとは思います。ドイツの選手は、所属クラブでみな中心選手ですからね。
───所属クラブで中心選手かどうかという観点は、日本代表の敗因のひとつかもしれませんね。本田圭佑や香川真司はビッグクラブに所属しているが、中心ではない。
欧州クラブの「選手を見る目」は厳しいです。それなりの質がないと当然入れませんから、彼らが二流だとか、そういう話ではない。
ただ、どんな監督のもとでもチームの中心になる「超一流」ではなかったということでしょう。
───日本代表と優勝争いをする国々と、何が違うのでしょう?
単純に勝った負けただけでは測れない差があります。
たとえば、イタリアも日本と同じくグループリーグ敗退ですが、日本とイタリアって同じレベルですかね?
───イタリアのほうが上でしょうね。
サッカーの本質は「いつ、どこに、なぜパスをするか」です。
サッカー先進国の選手は右からボールが来たらどういう動きをするか、左からボールが来たらどういう体勢をとるか、といった基礎的な部分を少年時代から徹底的に仕込まれています。
たとえばドイツの選手は、映像で見ると不器用そうに見えるかもしれませんが、私に言わせれば、彼らはメチャクチャ上手い。
アフリカ勢も欧州のクラブが投資したことにより、そういった教育が行き届いてきた。彼らはもはや身体能力だけのチームではない。
「すごい選手」を作り上げる新たな試み「Elite Camp」
───日本にも教育を行き届かせるにはどうしたらいいのでしょう?
少年サッカーでは指導者のモラルが子供に伝染します。
私の見る限りでは、やはり「勝て勝て」とか「頑張れ」という勝利至上主義が蔓延っている。日本の少年サッカー指導者は、「勝て」という一方で、大事なことを教えない。
W杯を観ながら、私なりに無力感のようなものも感じました。私はいま、厚木でサッカーを教えていますから、自分ができることをひとつひとつやっていこうと。
───何か新しいことを始めるんですか?
「上手い子集まれ、すごい子になろう」という企画を考えていましてね。
この夏、8月18日(月)~20日(水)にかけて、私が経営するLJサッカーパークで、「Lee Elite Camp 2014」という小学5~6年生向けの講習をやるんです。
立ち方、ボールの持ち方、という個の基本と戦術講座を教えます。良い立ち方、良いボールの持ち方ができる選手がいい選手ですから。
オランダとコスタリカの準々決勝を観ましたか? オランダのDFは、後半の疲れた時間帯でもコスタリカのすばしっこいFWに対して、ちゃんと両足をついて守っていた。良い立ち方の基本が染み付いているんです。
───テレビの解説ではそういう技術的な論評はなかったですね。ところで、「両足をついて守る」ことのどのあたりが良いのですか?
技術的な話は文字で書くと長くなるので、この場ではちょっとやめておきましょう。「Elite Camp」を見学しに来ればあなたにもわかりますよ。
オランダの選手は、少年時代に指導者から良い立ち方、良いボールの持ち方を叩きこまれている。その体に染み付いた動きがW杯の舞台で勝負を分ける。ちょっとの差なんですけど。
───「Elite Camp」は大人が見学しに行ってもいいんですか?
子どもたちだけでなく、サッカー好きやサッカーに携わる大人が見に来るのもOKですし、もちろん親御さんに見学して頂いてもいい。
サッカーを指導している方にも見て頂いて、いいなと思う指導があれば、真似して日々の指導に役立ててもらってもいい。
───なるほど。「Elite Camp」という響きからすると、上手い子向けに高度な内容を教えるということでしょうか。
いや、違うんです。サッカーの経験がない方には、わからない話かもしれませんが、レベルが上だからといって高度で難解なことをやるわけではない。
サッカーってシンプルな競技なんですよ。日本代表も高度な練習をするわけでない。私はプロでもアマチュアでも同じ練習をします。
───そういった環境から戸田和幸さんや森岡隆三さんのような日本代表選手が生まれたと。
指導する側から言えば、日本代表とかプロ選手を指導するほうが楽ですよ。「できる」選手が集まっているなら、やるべきことの確認をするだけでいいわけですから。もちろん、プレーの「強度」は上げますけどね。
───プロ選手を指導するほうが楽なんですね。驚きました。
音楽に例えてみましょうか。
ベルリン・フィルハーモニーの指揮者は練習で確認をするだけです。メンバーはみな上手いし、言われたことをなんでもできますから、「ここは強く」「ここはゆっくり」と指示するだけでいい。
しかし、これが高校生の楽団だったら、音の出し方を教えるところから始めねばならない。サッカーも同じようなものですよ。
───なるほど。ちなみにすごい選手ってどういう選手なんですか?
私は選手に「1人が2つのことをできる」よう求めます。
右にも左にもパスが出せる。パスもドリブルもできる。それが「1人が2つのことをできる」状態です。それがサッカーの基本です。
その基本を大事にすることで、滑らかなサッカーができる。桐蔭学園でも駒澤大学でも、ヴェルディ川崎でもそういうチームを作ってきました。
W杯の日本代表を見て、無念さはあります。しかし、いい選手がいないのに「勝て」と言ってもしょうがない。順序が逆だろうと。私が日本サッカーのためにいまできることは何か。日本代表に「勝て」と言うならば、まずすごい選手を作り上げねばならない。
───「Elite Camp」には座学の講習もあるんですね。座学のサッカー講習は小学生には少し早いのでは?
日本の教育では、読み書きや九九を小学生の段階で教えますよね?
私はサッカーで言うところの読み書きや九九を教えるわけです。小学生だからといって早いということはない。読み書きや九九は大人になっても毎日使うスキルですからね。
日本代表は、その読み書きや九九があやふやだから、ああいうことになるわけですよ。「三つ子の魂百まで」ですから、若いうちにそれを教えなければならない。
───李さんのように多くのJリーガーや日本代表を育ててきた人の指導がもっと多くの人に触れてもらえるといいですね。
今後はサッカー指導の動画をYouTubeで配信していくことも考えています。
中学3年生の小野伸二と高原直泰を見て驚いた話
───それはいいアイデアですね。ところで、桐蔭時代も含めて、李さんがご覧になってきた選手で「すごい選手」ってどのくらいいたんですか?
中学3年生の時の小野伸二と高原直泰にはびっくりしたね。ボールを持ったらまず取られない。15歳ですべてができる選手でした。
こんなすごい子が世の中にいるの?と思いましたよ。高原君は日本代表にもなったし、W杯にも出たし、一般的には成功した選手というくくりですが、もっとすごい選手になってもおかしくなかった。
───ほかにはいますか?
名前は忘れましたが、何年か前に山梨にものすごい中学3年生がいましたよ。高原君以上だなと。中学3年生でこんなこともできちゃうのと驚きました。
怪我もあったのか、いまは大学でやっていると聞いてますけどね。お父様がサッカーライターだと言っていた記憶があります。
───ああ、加部未蘭選手ですかね。
あと、名前を出すのは控えますが、星稜高校の2年生に中盤のすごい選手がいます。中学3年生の時に見て、「なんと才能豊かな選手がいるのだろう」と思いました。
───日本にもすごい選手がいるのになぜ代表に反映されないのでしょうか。
環境の違いもあるのでは?
海外だと上手い子がいたら、大人がチームに入れようとします。世界のトップ選手は皆そうだったんじゃないですか? 少年時代に「うちのチームに来たら新品のスパイクをあげるよ」から始まって、「うちのチームに来てトップの試合に出れば契約金はいくらで年俸はいくらで」っていう話じゃないですか。
だから、私がプロチームを持っていたならば、中学3年生の小野君や高原君を「1億出してもいいから獲ってこい」って言いますよ。それくらいの価値はあった。星稜高校の子は、すごいんだけど、小野君らとはタイプが違って、よく見ないとすごさがわからないから5,000万円くらいかもしれない(笑)。
日本だとこういう風にお金の話をすると変に受け取られますけどね。構造的にそうはなっていないから。
ただ、現にサッカー先進国ではそういうシステムになっているわけじゃないですか。日本では「どの高校が獲るの?」っていう話になっちゃいますけど。
───ほかに5,000万円以上の選手っていましたか?
いや、私はスカウト業じゃないですからね(笑)。たまたま見た中ですごいと思った選手を挙げただけで。
おそらく日本にはもっとたくさんいい選手がいるんだと思いますよ。
───「Elite Camp」をきっかけに、いい選手がすごい選手になって、巣立ってくれるといいですね。
【Lee Elite Camp 2014 お問い合わせ】
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詳しくはLJサッカーパーク公式サイトを御覧ください。
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